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ネットで拾った映画の感想。辛口だけど読み応えがあったので保存

『ミリオン・ダラー・ベイビー』(クリント・イーストウッド)
小林信彦が確か週刊文春でこの映画のことを、「クリント・イーストウッドの最高傑作」「映画史上のベストテンに上げられる傑作」と絶賛していた。
「映画なんて好きか嫌いかが全て。映画に順位をつけたり、どれが最高傑作かを決めたりなんて意味ないじゃん」という意見も当然あるだろうけれど、俺は小林信彦の言葉を支持する。
どんなジャンルでも、個人の好き嫌いを越えたスタンダードのような作品はあるのであり、そうしたスタンダードが理解できないとしたら、やはり馬鹿だと軽蔑されてしかるべきだと思う。
「絵画ではダヴィンチのモナリザが一番好きなんですよ」とか「劇作家といえばシェークスピアが大好きです」なんて言い方は、ナンセンスでしょ。
「スターウォーズ」が好きな人がいてもいいし、嫌いな人がいてもいい。でも、イーストウッドやゴダールや小津が理解できない人というのは当然軽蔑されるべきだよ。

ところで、ネットでこの映画について書いてるブログを拾い読みしたんだけど、意外に評判が良くないのでちょっと驚いてしまった。
「ロッキーみたいなボクシング映画だと思ったら違ったんだ〜」と肩すかしを食らったか、「この映画のいったいどこで泣けばいいの〜」みたいな感想が意外に多い。

「生まれ方にも才能がある」と蓮実重彦がどこかで書いていたと思うが、こういう映画が理解できないとしたら、やはり自分の「呪われた出生」を悔やんだ方がいいね。マジで。
映画館のない田舎で生まれた人や、親が映画館に連れて行ってくれなかった人は、映画的に見れば「呪われた幼少時代」だったと思うし、思春期の時代にまわりにいい映画マニアの友達がいなかった人は、映画的に見れば「呪われた青春」を過ごしたということになると思う。
この映画が分からない人というのは、おそらく何らかの意味で「映画的に呪われた人生」をこれまで送ってきたということになると思うよ。

確かにこの映画は「女・子供・ヒーローは死なない」という70年代以降のハリウッドの規範文法からは外れている。映画的に「育ちの卑しい人たち」には理解しにくいというか、理解したくない設定なのかもしれないね。
でもね、これは、映画館で泣くための映画ではないんです。映画館を出てきてから何度も咀嚼しなおし噛みしめ、そして吸収していく映画です。

「主人公の最後の決断が無責任だ。あれだったら、遺産相続の問題とか何にも解決していない」とか書いてるブログもあったけど、馬鹿だね〜。

遺産相続の問題なんて発生するわけないじゃん。
だってこれは人生ではなく映画なんだから。

映画と人生はまったく似ていない。映画は夢に似ているね。不思議なくらいリアルで、そして大きな喪失感を目覚めた後に残してくれる明け方に見るあの夢に。

そして映画は夢と同じようにリアルである。人生は日常性の中で摩滅してしまっているけれど、夢は、そしてよい映画は、人生以上にリアルだ。

夢には結末などなく、唐突に途切れてしまう。映画も同じことだ。エンドマークの後に、遺産相続の問題なんて生じるわけないんだよ。エンドマークの後に残るのは、映像の断片と、そして覚醒感とも喪失感とも言える深くエモーショナルな余韻だけです。


とまれ。イーストウッドが演じる老トレーナーの語るボクシング観は、まるで奇術師さんの書き込みのように深遠で、トレードの世界にも当てはまる事ばかりだ。ボクシングという言葉をトレードと置き換えば、そのままトレード哲学としても読めてしまうことに驚かされる。

株式トレードだって、わずかな油断で不用意なパンチを浴びてしまっただけで、取り返しの付かない後遺症を受けたり、時には命を失うこともあるということを忘れてはいけない。
資金限定で動かしているつもりのサラリーマンや主婦のトレーダーだって、調子に乗ってると、マイホームを手放すことになったり、子供の大学受験を諦めなければならなくなったりすることは十分にありうるわけですよ。

たしかにボクシングとトレードは似ているのかもしれない。

「ボクシングってのは自然に反した行動なんだ。俺が言ってることが分かるか?ボクシングは、何もかも生きることに反している。左に動きたいなら。左側に踏み出してはいけない。右の爪先を出すんだ。こんな具合にな。右に動くには、左の爪先を使う。ほら、な?」
「苦痛を避けるのは、生きてる人間にとってはごく自然のことだ。だがボクシングでは。あえてその苦痛に近づいていくんだ。わかるか?だから、ボクサーになるとひとたび決心したなら、どう戦うかということを知る必要が出てくる。お前がどんなにタフだろうと、でかい一物をぶら下げた連中がお前をノックアウトしようとするんだからな」
(F・X・トゥール「ミリオン・ダラー・ベイビー」より 東理夫訳)
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